面白不思議なクマの世界

  • 2016.03.28 Monday
  • 10:54
JUGEMテーマ:読書

『日本のクマ――ヒグマとツキノワグマの生物学』坪田敏男・山崎晃司編 東京大学出版会
 
 過日、某博物館でツキノワグマについての講座があったので、自然とかかわりを深めている身としては、一般教養としてもクマのことを少しは知っていなければと、気軽に参加した。短時間の講座だったけれど、内容はなかなか興味深くて、これまで知らないことをいろいろ教えてもらって充実した時間を過ごすことができた。
 そのときの講師がこの本の編著者の一人であることを知って、さっそく図書館で借りて読んでみた(定価5800円なので、とても買えません)。
 一般向けの解説書ではなく学術書なので、わけのわからない専門用語や、複雑な表や数字の羅列などややとっつきにくいところもあるのだが、こちらは専門家でもなんでもないから、そういうところは軽く読み飛ばして、結論的なところを重点的に読んでいった。ヒグマについては、本州にはいないからこれも斜め読み。せっかく力を入れて書いてくれた執筆者には申し訳ないけど、なにしろ図書館には期日までには返さなけりゃならないもので。
 その限りでも、いろいろ知らないことを知ることができて、とにかくわくわく感でいっぱいになれた。読んでいる途中から、本の知識を受け売りして友人に自慢することもできたのである。
 ツキノワグマは私達にもかなり身近な生物でありながら、普段は森の中で暮らしているし、動いているときに接近して観察することもできない(そんなことをすれば、観察者の命が保証されない)ので、研究者にもわからないところがいまだに随分あるらしい。それをGPSなどの新しい手段も駆使して少しずつ解明しつつあるというのが現状のようだ。
 数か月の冬眠を経ても筋肉量は1割程度しか落ちず、刺激があればただちに立ち上がって戦闘モードになれることなど、初めて知ることもずいぶんあったし、食性や行動様式など、これまで漠然と考えていたことがかなり見当はずれだったこともわかった。
 なかでも興味深かったのは雌の生態。冬眠中に出産することも驚きだが、初夏に交尾しても妊娠・出産に耐えられる栄養状態になるまで受精卵が着床せず、栄養不十分の時は着床を止め、妊娠そのものをやめてしまうのだという。なんという神秘的な生き物なのだろうか。
 クマは今、世界的には絶滅の危機にある。日本でも九州では絶滅とされているし、西日本・四国ではかなり厳しい状況に置かれている。それでも日本は、世界の8種類中のクマのうちヒグマとツキノワグマが比較的に高い密度で生息しており、「世界に誇れる数少ないクマ生息国」(序章より)だという。人間との関係では、農産物被害や時として人的被害があるために難しい局面に行き当たるときもあるが、この魅力的な動物を長期にわたって保全していくために何ができるのか、これからは、そんなことも考えながら山野を歩きたいと思う。
 

『灰色の犬』が面白い

  • 2016.03.18 Friday
  • 08:06
JUGEMテーマ:読書

『灰色の犬』福澤徹三(光文社)

 

 この物語には、3人の主人公がいる。

 片桐誠一。警部補。情報漏えいの犯人扱いされて左遷されて以来、完全に出世街道からは外れ、上司に疎まれる一方、幹部の栄進のための違法捜査の片棒を担がされるなど、灰色の警察官生活をおくっている。

 もう一人は、誠一の子供、遼平。大学は卒業したものの定職につけず、パチンコにはまり込んでお決まりの転落コースを歩み続けている。父親とは感情が大きく隔たったままだ。

 3人目はやくざの中堅幹部、刀根剛。理事長補佐などと肩書きだけは立派だが、上の幹部や稼ぎのいい下のものからは軽くあしらわれ、一向に芽が出ない。経営しているラウンジや居酒屋からのあがりは少なく、歯医者の治療にびくびくしている小心者だ。

 片桐誠一は、自分なりの捜査の信念を持っているが、上司は一向にそれを評価せず、鬱憤はたまるばかり。遼平は、闇金にがんじがらめにされ、半同棲の女性からも裏切られてどうにも救いようのない泥沼にはまり込んだまま。そして刀根も、片桐の情報提供者(やくざの仲間からは「犬」扱い)になって見返りを求めたもののうまくいかず、窮地に立たされる。

 これって3人の転落物語かと思うほど、作者はじっくりとそれぞれの日常を描いていく。

 ところが、3人の軌跡が、あるとき1点に収れんしていく。警察とやくざの癒着が警察上層部から中堅幹部まで蝕んでいる実態が次第に明らかになる。片桐は職をかけてその犯罪を暴こうと挑んでいく。やくざの親分から煮え湯を飲まされた刀根も、片桐に協力するという奇妙な成り行きに。偶然、犯罪者たちの会話を聞いてしまった遼平が父親の窮地を救うために渦中に飛び込む。ひ弱な3匹の犬が巨大な敵に立ち向かう。

 最後はもう、事態が急展開し、流れを追うのに忙しい「痛快活劇」の様相になった。

 片桐は腐敗した上司の拳銃で撃たれるが、一命を取り留める。遼平との親子の絆も回復し、爆発に巻き込まれた刀根もどこかで生き延びているらしい。

 ということで最後は大団円なのだが、細部のリアリティもあいまいにしない丁寧な描写、スピード感のある筆遣いと、なかなか楽しめる小説で、お勧めです。

『写楽 閉じた国の幻』島田荘司

  • 2016.03.03 Thursday
  • 17:51
JUGEMテーマ:読書『写楽 閉じた国の幻』 島田荘司 新潮社 2010年刊
 
 寛政6年(1794年)に突如現れ、きわめて衝撃的な浮世絵作品を残しながら忽然と姿を消した写楽については、「写楽とは誰か」というテーマでこれまでもさまざまな学者・研究者、美術史家、作家が挑んできたが、最終的に決め手となる説はいまだ確立していないと言っていいだろう。
 そこに島田荘司が一石を投じた。それも、これまで誰も発想しえなかった、ある意味無謀ともいえるような仮説なのだが、それについてはネタバレになるので触れない。
 私自身は、彼の説の当否を論じられるような知識は持ち合わせていないので、とりあえずは物語としての島田荘司の世界を楽しもうと読み始めたのだが、それでよかったのだと思う。
 物語は、写楽の謎にのめり込むちょっとさえない研究者を主人公にした現代日本のドラマと、寛政6年の江戸で写楽が登場するまでのドラマが、交互に展開するつくりになっている。写楽の正体についての、全くあり得ないことではなさそうな仮説や、そこへたどりつくまでの主人公の紆余曲折、艱難辛苦。さらに、当代の超一流の浮世絵師が写楽の作品に深くかかわっているという展開も、実に面白い。
 島田荘司にはめずらしく、殺人事件一つない小説だが、写楽をめぐる謎解きの要素もあるし、ヤマ場が勧進帳ばりになっている江戸のドラマも、ハラハラドキドキの面白さだ。
 ただ、回転ドアの事故を巡る怪しげな人々の動きや、不可思議なオランダ語の書かれた肉筆浮世絵などは、思わせぶりに提示されたものの、十分に展開されておらず、不満も残る。これについては、作者自身があとがきで、小説に書き残したことがあることを認め、いずれ『閉じた国の幻供戮鮟颪たいと言っているので、期待して待っていたい。

 

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